《戸籍謄本を揃えるにもかなりの手間・暇がかかる》
【 学生時代の友人の体験談 】
友人は,東京近郊に一家を構える定年後現在再雇用中の男性で,田舎には,高齢の母親(87歳)とその妹(叔母84歳)が二人で居住していました。
叔母さんは,若い頃に1度結婚したことがあるものの,短期間で離婚し,子どもはなく,その後生涯独身で,十年前,夫(友人の父親)を亡くして単身住まいとなった姉(友人の母親)の許に身を寄せて来たのです。
この叔母さんが母親より先に急逝してしまったというのです。残った遺産は500万円ほどの銀行預金(通帳1冊)のみですが,この処理を巡って,友人が母親に代わり戸籍謄本等の書類の収集を引き受けたのです。
5,6か所の各地の役所に問合せて請求を繰り返し,7,8通の謄本全部をやっと揃えたとのことでした。役所とのやりとりもあって,結構苦労したという話を酒の席で聞いたことがあります。
【 ここからは,私の仕事に関係したお話です。 】
叔母さんには,親も子もなく,唯一の相続人である姉(友人の母親)がいるだけです。しかも,遺産は1つの銀行預金のみです。処理は簡単だろうと思いきや,これがさにあらず,意外と大変なのです。
遺産の処理では,相続人を確定するために,叔母さんが生まれてから死亡するまでの連続する戸籍を揃えなければなりません。
友人と母親は血筋でいうと「タテの関係」,友人と叔母さんとは「ナナメの関係」になります。
「タテ・ヨコの関係」だと簡単に代わって行うことが認められるのですが,「ナナメの関係」だとそうはいきません。謄本の請求についての委任を受けることが必要になります。
つまり,➀か➁のいずれかの方法になります。
➀ 母親と叔母さんの姉妹関係を示す戸籍謄本を添付して母親の名前で請求する。
➁ 友人が母親から「委任状」を取って,➀の戸籍とともに添付して友人の名前で請求する。
その上で,戸籍には必ず前の本籍地が載っていますから,それを順々に遡っていき,それぞれの役所へ請求していくとう手順になります。
謄本の交付請求書と添付書類,それに切手を貼った返信用封筒と手数料(郵便小為替)を同封して,順次請求していくわけですから,そのやりとりに結構な時間がかかることになります。
本籍は,結婚や転籍で変わります。これを全国的に繰り返していると,多数の各地の役所に請求しなければならないことになってしまいます。
【 「改製原戸籍」にご注意を 】
戸籍は,戦後2回(昭和32年と平成6年)その様式が変わる大改正がありました。
昭和32年の改正は,現在のように「両親と子」を単位とする形式への変更,平成6年の改正は,電子書式への形式変更です。
その度に新様式の戸籍が作成され,現在へ引き継がれているわけです。ただ,新しい様式に移るとき,それまでの戸籍に記載のあった養子関係や認知関係が消えてしまうのです。そのため,相続では,この変更前の戸籍を必ず確認することが1つのポイントとなります。この前の戸籍は特に「改製原戸籍(「カイセイハラコセキ」又は「カイセイゲンコセキ」)と呼ばれています。
「カイセイハラコセキ」と音だけ聞くと,「何だそれ?」と,思わず吹き出しそうになりますが,役所の担当の方は至って真面目に応対してくれますので,失礼のないようにしましょう。
ところで,友人の叔母さんは,若い時1度結婚し,子どもさんもなく短期間で離婚しているとのことでした。この離婚によって,叔母さんは,一旦祖父母(母親と叔母の親)の戸籍に戻るか,自ら筆頭者として新しい戸籍を作るかしているはずです。この点は友人には確認していません。
読者の皆さんにとしては,この点もポイントになることを覚えておいてください。
【 戸籍謄本の収集には半年を要することも 】
このような次第ですから,本籍地が全国的各地にあちこちしていて,数多くの役所に順次請求していくとなると,すべて集めるのに数か月,いや,仕事を持ちながら片手間にやるとなると,半年近くかかるかもしれません。
甥の立場で戸籍を集めた友人としては,このような苦労をしないためには,叔母さんに遺言書作成をアドバイスしておくのも一手だったかもしれません。